1/2 (木)
今日も太郎は正月特訓だ。
朝物音で目覚めて時計を見るとまだ午前3時だ。
何やら妻が電話で誰かと話している。
しかもかなり慌てた感じだ。
妻が二階から下に降り、エアコンの稼働する音が聞こえたので私も居間に向かう。
妻にどうしたのか聞いてみると職場のスーパーの店長からの電話で、どうやらアルバイトの留学生が自殺未遂をしたらしい。
その留学生の携帯電話を病院の人が通話記録を調べたら、唯一の日本人の名前が店長だけなのだ。それ以外は皆ベンガル語の名前なので必然的に日本人宛に電話が入ったというわけだ。
それもそのはずバングラデシュは唯一の公用語がベンガル語なので、いくら頭の良い医療従事者でもベンガル語が操れる人はそうはいないはずだ。
アルバイト先の上司に病院から連絡が入ったが、その上司の自宅は職場から100キロ程離れた場所なので、直ぐに駆けつけられる訳にも、いかず白羽の矢が妻に向いたみたいなのだ。
正月早々、しかも真夜中にそんな事を言われてもこちらも困る。
でも妻はその留学生と仲が良かったらしく病院に向かうとのこと。
ここから車だと2、30分の場所なので送ろうかと尋ねたら、帰りが何時になるか分からないし、迎えに来てもらわなければならないので大丈夫と断られた。
まあ、車に乗らなければならないとなると酒が飲めないので、私にしてみればその方が都合が良い。
人の生き死にがかかっているのに酒の心配をするのもバチ当たりみたいな気がするので、
とりあえずは無事でいることを祈るしかない。
太郎を塾に送り出しても妻からは連絡も無いので今日も一人でこたつに入り本を読みながらビールを飲んだ。
最近続けて読みふけっているのは赤松利市。
たまたまNHK の深夜ラジオを聴いていたら、
インタビューを受け答えしていたのが赤松利市で、
この人の生い立ちを聞いていたら作品も興味が湧いてきて年末に早速図書館から借りてきたのだ。
タイトルは「らんちう」といってなかなか面白かった。
一冊読み終えた頃に妻が帰宅。
かなり疲れた様子でことの成り行きを聞いた。
妻から概要を聞いてみると、慣れない日本、慣れない仕事、同郷の彼氏とのトラブル等々色々な出来事が重なり精神科に通院していららしい。
そこで彼氏と電話でケンカしたらしく電話を切った後に発作的に大量の薬を飲み込んだらしい。
そもそも精神科に通う患者で、しかも自殺願望がある人間に処方される薬は多少オーバードーズしたところで簡単には死ねないだろう。
数時間苦しい思いをした後、自ら救急車を呼んだのだ。
病院に担ぎ込まれ胃の洗浄をされて点滴を打っていたらしい。
ふと、昔知り合った女がメンタルが弱く、手首に躊躇い傷をたくさん付けていた女性を思い出した。
酒を飲んでは死にたくなるらしく、手首を切ったり薬を大量に飲んだりしてもなかなか死ねない。
いつも回りの人に迷惑をかけていた女だ。
最初は心配したけれど、あまりに自分勝手な考え方だらけで、関わるのも嫌になったことがある。
その女が言ってた言葉に
『死にたいけれど死ね無いんだよ、助けられたら痛かったり苦しい思いしか残って無いんだけど、また嫌な事があると繰り返すんだよ』って言っていた。
国こそ違うが同じような人間はどこにでもいるんだろう。