しかし気付いた時には販売した会社もセールスマンも分からず、チケットに記載されている電話番号は上映する館の場所と日時をテープで流すだけなので完全に泣き寝入りするしか手は無い。
売っている時には罪悪感のかけらも無かったが、ある日突然アクシデントは起こったのだ。
数ヶ月も仕事を続けていれば自分が入社した時のスタッフも半分以上も入れ替わり、そこそこエラくなってサブリーダー的な存在になっていた。
新宿で営業していたら若い女が警察官と一緒にこっちへ向かってきた。
その瞬間、リーダー格の先輩が足早に去って行くのが見えた。そ して、
警官『あんた、ここで何やってんの?』
私『映画についてのアンケートです』
警官『(女に向かって)本当?』
女『嘘です、さっき私に映画のチケットを売りつけようとしました!』
警官『こう言ってるけど話が違うな』
私『いえ、そんな事はありません』
警官『(私を指して)この男?』
(100メートル先で営業している、入社したての後輩を指差して)
女『いいえ、あっちにいる男です』
警官『あんた達がやっている事はこっちも把握してんだよ、そんな観れもしないチケット売ってたら詐欺罪になるぞ』
私『誤解しないで下さいよ、ちゃんと映画を観れるチケットを扱っているんですから』
警官『(ニヤリと笑いながら)あんた今自分で売ってるって言ったよな、道路で商売する時は道路使用許可証って物が必要なんだよ、許可証あるんだったら見せて』
私『いや、売ったりしてません!ただアンケートを集計しているだけです』
警官『売ってるって聞こえましたよね?』
女『はい、確かに聞きました!』
国家権力にハメられ、リーダー格な先輩が逃げたので私が交番に連れて行かれ事情聴取を受けたのだ。
警官は始末書を書けば許すと言っているが、私自身は違法行為は一切していないし、詳しく聞けば、新入りの男が自分だけ売り上げがあがらずに、焦って無理やり売りつけようとしてのトラブルらしく、正直警察側も傷害や詐欺での立件する程の事でも無いし、始末書で済ませたかったのだ。